お  ば  みね     いっぽんだたら
伯母峰の一本足
 

 ここらでは12月のことを『果ての月』といいますが、
「果ての二十日は伯母峰を通るなよ。一本足に生き血を吸われるぞ」

と伝えられております。
 果ての二十日に『伯母峰峠』を通ると、10人通れば10人とも帰らん、といいます。

 そこには、天井をつくような大きさで一本足、2キロ先で3匹の蚊がうなっているのが見えたという一つ目の怪物が出て、人の生き血を吸うという。
 怪物は、夏は『牛石ケ原』、冬は『伯母峰峠』、今のドライブウェイの料金所のあるあたりに棲んどったそうです。
(※現在は料金所はなくなっており、休憩所があります。)

 この地方の人々は林業で生活していましたが、それだけでは食べていけんので出稼ぎに行きます。
 出稼ぎの人達は正月には帰ってまいりますので年末に峠を越える人が多く、物騒でしかたない。
 これではかなわんというので、人々は天ケ瀬村の猟の名人、射場兵庫(いばひょうご)に怪物退治を頼んだ。

 その年も果ての二十日、兵庫はブチという大きな熊のような犬を従えて、雪をかきわけかきわけ峠に向かいました。

 峠は吹雪で、雪の中で怪物を待つ兵庫はどうにも眠とうてたまらん。
 それもそのはず、とっくの昔に兵庫に気がついていた一本足は犬が恐ろしくて近づけんので、遠くからまじのうとったのです。
 まじなうというのは、催眠術をかけることです。

 見るとブチも眠そうにしておる。
 兵庫はブチがねてしまわんように火筒でつついとった。

 やがて火の玉とともに現れた一本足、ひとつの目がギラリと兵庫をにらみつける。

 兵庫は腹のまわりに600も持っていた弾を次々に撃つが、一発も当たらん。

 とうとう弾がのうなってしもて、これで世も末かと思うた時に手に触れたのが、腹巻きの中にしのばせてあった『ひとつぶ弾』。
 これは猟師の最後の弾、つまりこれを撃てば猟師をやめんならんというお守り弾で、南無阿弥陀仏と彫り込んである。
 昔は一人一人の猟師が自分で作ってお守り袋に入れ、ふところにしのばせて決して他人には見せんかったという秘蔵の一発。

 ズドーン、と兵庫の筒が火を吹いた。

 その時、怪物のウギャーッという叫びが聞こえたが、兵庫はいち早く逃げ出して雪の中に座り込んだ。
 寒さでウトウトすると、ブチと怪物の闘う声が聞こえる。

 そうこうしているうちに夜が白みはじめて、兵庫の体にまつわりつくもんがある。
 それはブチであった。
 ブチも恐ろしくて主人にまつわりついとったのです。

 やがて様子を見に来た村人達に助けられた兵庫が、闘いの跡を見に行きますと、兵庫が怪物に向けて撃った弾は、大きなブナの木に一列に並んで当たっとった。やれ不思議なことがあるもんやが、怪物の姿が見えん。

 兵庫は村人に、
「あれは大イノシシやった。手ごたえはあった」と言うた。

 さて、一本足は紀州は『湯の峰』という温泉に逃げていた。
 山伏姿に化けた怪物は宿に入ったが、主人を呼ぶなりスタスタと離れの8畳間へ行って、
「決してのぞくではない」と言ったきり大いびきで寝てしまった。

 驚いたのは主人。
 その山伏のわらじがなんと一尺八寸、二貫八百もあって、どこぞの仁王さんも逃げだしそうな代物。
 そしてその大男がイビキをするたんびに家が揺れる。
 床だけならわかるが、屋根までがあっちいきこっちいきする。

 えらいことになったと思うた主人は、ちょっとくらい見てもかまわんやろ、と障子をそろっと開けてびっくり。
 そこには、体中に笹の生えた大イノシシが八畳間いっぱいになって寝とった。
 笹は天井まで届いて屋根をゆさぶっとった。

 腰を抜かした主人がいざりながら居間に戻ろうとしたら、いつの間に来たもんか、怪物が山伏姿になって居間の前に立っとる。
 主人の腰の骨はバラバラになってしもた。

「あれだけ言ったではないか」 怪物の声はひびく。

「正体を見破られしうえは何をかく言うぞ。
我こそは伯母峰峠の主、一本足である。
正体は八畳間いっぱいある笹の生えた大イノシシ。
イノシシの王『猪笹王』(いざさおう)であるぞ。
 天ケ瀬村の射場兵庫の火縄筒にかかり、わしはもう往生するが、
兵庫もブチという犬も生きとるのに、わしだけが死ぬのがくやしうてたまらん。
 世を、人を呪い続けるぞ。
 兵庫の火筒とブチを持って来れば命だけは助けてやる。」

 宿の主人は半信半疑で天ケ瀬村へと旅立ち、そこには本当に射場兵庫という人とブチという犬がいることを知った。

 (やはりあの怪物の言ったことは本当か・・・。)

 しかし、主人はどうせ怪物に呪われた体、3年は持つまいと思うて、村人達に湯の峰での出来事を残らず語った。
 そして主人が話し終わるか終わらないかというその時、突然青い火の玉が飛んで来て主人ののどに食らいつき、主人はそのまま息絶えてしまったと。
 怪物は主人の後になり先になりしてついて来とったのです。

 これを聞いた村人達は驚いて、早速、祠(ほこら)をつくって鉄砲をまつり、大切に保存し、村の宝泉寺に『猪笹王』の霊をまつって、毎年『果ての二十日』に供養をすることにしたのです。

 今でも鉄砲と弾は天ケ瀬村の氏神の横にまつられております。
 そして一本足は交通安全のお守りとして、お土産物店で売っています。

大台のお爺さんからのメッセージへ・・・